世界的にも地域的にも、私たちの社会は大きな転機を迎えています。これからの社会はどうなるのでしょうか、あるいはどのようなものにしてゆくべきなのでしょうか。本質的なこと、そして具体的なこと。理念の上で、そして実践の上で。様々な視点を綜合するように、私たちは考えてゆかねばなりません。 学生時代はそのための、人生における大切な時期であると思います。 企業は、現代社会(グローバルな産業社会)における主要なプレーヤーです。その第一線に立つ方々のお話をうかがうことは、現在の、そしてこれからの社会を考えてゆく上でとても大切な機会です。 ご協力いただく皆様に、心より感謝いたします。 |
企業・産業活動を通じて考える、これからの社会
東京ガス CSR室 室長 中塚千恵さん 2011年度11月期
東京ガス株式会社広報部CAR室室長、中塚千恵さんに、東京ガスグループCSR報告書(「CSR・会社案内2011」)をもとに、CSR報告書を“つくる”ことについてお話しいただきました。報告書の構成、技術的な内容解説とともに、中塚さんが特に強調されていたのは、単にデータを提示することではなくそれがどういう意味を持つのかを明らかにすること、どのような関係作りに結びつくものであるのかを考えることです。 環境や安全への対応の事実、それを正確に伝えることは当然必要です。しかしそれだけでなく、事実を示す情報が意味を持つものとなるように、つまり企業活動と社会とをよりよいものへと進めるために、それを伝え表現する工夫に心を砕こうということです。 そのような視点で東京ガスのCSR報告書を読むと、様々な工夫がされていることがよく分かります。なかでも、東京ガスに関わる会社内外の多様な人々の声を集めたページがとてもおもしろく構成されています。利害関係者とも訳される“ステークホルダー”は、とてもよく使われるCSR用語のひとつですが、報告書のページからは、東京ガスの事業に関係する様々な企業やNPO、大学、公共組織の人たち、そしてガス事業を成り立たせている様々な部署の人たち、それぞれの立場からのちがった声が、まさに多声的にひびいています。 この報告書作りのプロセス自体も、組織の内外の人たちを結びつけてきたのだなと感じさせられました。 |
サンマルコ 丸子社長 2011年12月7日
サンマルコ株式会社 丸子勝基社長にお越しいただき、創業することの苦労と面白さについてお話しいただきました。サンマルコは、住友スリーエム株式会社に長く勤務された丸子さんが、同社の販売特約店として起業された会社です。3Mの窓用フィルムの施工と販売を手がけられています。 同社はただ、大会社の製品を取り扱っているだけではありません。その製品をより社会で役立ち受け入れられるように、商品として作り直し、新しい事業形態を作り上げている会社です。どうやったら事業としてうまくいくのか。丸子さんの創意と工夫、事業作りの情熱は、単にスタートアップ企業の苦労話ではなく、今日ではどのような規模の会社であろうとも必要な、事業を担当する人にとって大切なことを象徴しています。 近年事業は順調に拡大し、防犯機能をもつ窓用フィルムから、今日では断熱機能フィルムへと、主力が移りつつあるそうです。環境対応、省エネを研究課題にする私たちとしてはその面でも大変に参考になります。 |
日本ロレアル 安尾美由紀さん 2011年11月30日
安尾さんは、フランスに本社を持つ化粧品メーカー、日本ロレアル株式会社のプロフェッショナル プロダクツ事業本部で、広報本部 部長を務められるすてきな女性です。
化粧品会社は、広告業界では中心的な存在ですが、安尾さんの担当されるのは広報です。つまり、商品の宣伝をするのではなく、その商品を受け入れることのできる価値観を、社会の中で育ててゆくお仕事です。広告は、その商品をほしい人、関心のある人には必要な、そして多くの場合楽しめる情報ですが、ほしいとは思わない人、関心のない人にとっては不用な、時として迷惑なものです。広報はそのような、人々が社会で共有している、いろいろな意味と価値の体系に関わってゆくものです。
安尾さんのお仕事は実に様々な人々や組織と関係しています。そしてその中で、会社の事業だけでなく、安尾さんという個人の働きも、様々に問われてゆきます。その難しさや楽しさを、ご自身のご経験に触れながらお話しいただきました。
特に焦点を当ててお話しいただいたのは、ロレアル社がユネスコとともに世界規模で取り組んでいる「美容師とともに行うHIV/エイズ予防教育活動」のことです。企業にとって、事業価値に加えて、社会価値について活動してゆくこと。そのことの意味と、その活動に実際に携わることが個人に与えることについて、ご自身の言葉で語られること。 広報やCSRが、企業と担当する個人にどれほど大きな場を与えるものであるのか。安尾さんのお話しはドラマティックな感も抱かせるものです。 |
マイフロンティア 増田裕介社長 2011年11月16日
株式会社マイフロンティアは、大学受験予備校、増田塾を展開するベンチャー企業です。増田裕介社長は、学生時代に本事業を構想、起業されました。 学生時代には企業経営者の先輩方を数多く訪問し、起業するとはどういうことか、経営には何が大切か、意見やアドバイスを受けながら事業構想や経営についての考え方を自分の中で育ててこられたそうです。 財務的な意味では何もないところから、新しい事業を興してゆくこと。意欲だけでなく、そのための技術的手法や経営ノウハウなども、具体的にそこから引き出せるような、構造的な講義をしていただきました。社会の変動期を迎え、誰もがベンチャー精神を持って社会に向かうことが求められている時代です。増田社長の冷静かつ意欲あふれるお話しを通じて、学生たちにとっての社会を見る目が変わってきたものと思います。 |
C.A.MOBILE 木村さん 2011年10-11月期
株式会社シーエー・モバイル、執行役員 人事グループ担当の木村健人さんに、5週連続でゼミナール型式の授業をご担当いただきました。木村さんは、三菱総合研究所のコンサルティング部門に約11年間ご勤務の後、大手企業を対象とした人事・人材開発のコンサル、外資系企業の人材開発業務をご経験された後、現在はシーエー・モバイル社にて人事担当役員を務められています。 www.camobile.com シーエー・モバイル社は、代表的なIT企業のひとつであるサーバー・エージェント社の関連会社で、携帯電話やスマート・フォンをベースにした、広告・物販・コンテンツ開発を行っている企業です。インターネットの舞台がPCから携帯機器に広がる今日、ネット・ビジネスの中核を担う企業のひとつです。 学生時代からCSRに関心を持たれ、企業の社会的価値や社会的働きを考え続けてこられ、企業にとっての“あるべきこと”を以下に実現するかに取り組まれてきた、木村さんのお考えと経験とを、現業に即してお話しいただきました。 授業では、次年度入社予定の現役大学生に加わってもらった討議や、発表直前の新アプリを開発チームに紹介してもらい、開発現場の生の声をうかがったりなど、臨場感あるものでした。同社初の女性役員である川本聖子さんとともに、個人にとって働くことと企業との関係について、踏み込んだ議論を行うなど、ゼミナール形式ならではの参加型で授業が進められました。 木村さんは一貫して、一人ひとりの働くモチベーションをいかに高めてゆけるか、社員と会社との関係はいかにあるべきかについて語り、学生たちに問いかけられました。 そして、モバイルがビジネスとして脚光を浴びているということだけでなく、その事業を通じて新しい文化づくりにいかに関わってゆけるのかと問い続ける、ご自身の姿勢を学生たちに伝えておられました。 |
SONY 戸村さん 2010/12/16
ソニー株式会社 CSR部 シニアCSRマネジャーの戸村さんに、SONYが考えるCSRについて、具体的な活動の紹介とともにお話しいただきました。 CSRは企業にとって「持続可能性への挑戦」であり、イノベーションと健全なる事業活動を通じてそれを果たすのだ、というお話しの中で、創業者のお一人である井深大氏に触れられたのが大変に印象的でした。 井深氏が、東京通信工業(ソニーの前身)を興した際、設立趣意書に書かれた「真面目ナル技術者ノ技能ヲ、最高度ニ発揮セシムベキ自由闊達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設」という言葉は、昭和の日本人に限らず多くの人に知られるものですが、戸村さんはここに、今日の社会起業家の精神と同じものを読み取られます。社会の矛盾や問題を、事業を通して解決し、人間の社会の可能性を追求してゆこうとする精神です。「企業は社会の公器」とはよく言われますが、現実の具体的な意志決定は別の原理でなされている例の方が一般には多くみられます。そのような市場原理を超えたところにある企業倫理としてCSRを捉えることは、創業精神の今日性につながるものというわけです。 まさしく全地球的に事業展開するSONYグループを通してのCSR活動事例については、環境問題やミレニアム開発目標(国連)を軸に紹介いただきました。特に2010 FIFA World Cup South Africaに際して取り組まれたDream Goal 2010というプロジェクトは、見ていても楽しいものでした。主に4つ、TV普及の低いカメルーンとガーナの地方部を回ってパブリック・ビューイングを設置する事業、子供たちが長く遊べる丈夫なアフリカ仕様のサッカーボールの開発と配布、子供たちをゲーム観戦に招待するチケット・ファンド、そして参加型のデジタル映像制作・発信教育プログラムであるシヤコナ(We can do it)。パブリック・ビューイングの会場(のべ24,000人参加)では、HIV検査も併設されたといいます(4,800人が受診)。 このような活動紹介を通じて感じたのは、SONY社員の参加のあり方です。それは金額や参加者数だけでなく、電気設備のない野外でのTV映像投影のための機材設置や、植物プラスチック素材を用いたオリジナルなサッカーボール開発に代表されるように、課題解決に対して自分に何ができるのかと捉える姿勢だといえます。Someone Needs You(S.O.N.Y.)というボランティア推進プログラムがあるそうです。新製品開発に取組みながらも、子供たちの科学する心を育む教育事業への支援を続けていた、井深氏の精神を受け継ぐものなのでしょう。 CSRを通じて、これからの社会と企業のあり方を再考させられる機会でした。 |
TOKYO GAS 八尾さん 2010/12/9
東京ガス株式会社 広報部 CSR室室長/社会文化センター所長の八尾さんに、東京ガスのCSR活動についてお話しいただきました。 八尾さん自身、就業に際して世の中の役に立つ仕事をしたいとしてインフラ事業者を選ばれたそうですが、東京ガスの場合は、暮らしと産業の基盤を担う本業そのものがCSRを果たすものだ、というお考えから話しを始められました。 お話しは経営理念や社内統制のことから、エネルギー源としての天然ガスの特質、ガスを安全に、効率的に利用するための技術、発電技術、スマート・グリッドの研究(スマート・エネルギー・ネットワーク)などにおよびました。インフラ事業者としての東京ガスが、安全で安定したエネルギー供給のために、どのような事業をし、どのような技術開発に取組み、どのような未来を見据えているかを、資源確保から最終利用まで、都市レベルから産業、家庭レベルまで、事例を挙げてわかりやすく解説いただきました。 その後、森林の生態系多様化促進のプロジェクト(東京ガスの森)や、教育施設(企業館、環境エネルギー館)などを紹介されましたが、特に興味深く感じたのは、エコ・クッキングという省エネ・省資源ライフの体験教育プログラムです。1995年以来7,500回を重ねるというこの教育事業の実施方法、成果は、エネルギー産業者のものとして大変すばらしいものと思います。 一貫して、環境経営トップランナーとして何をすべきか、という立場で語られていた八尾さんに、働くことの喜びと誇りを共有できる組織の姿を垣間見るように思える機会でした。 |
みずほCSR推進室 橋村さん 2010/12/2
株式会社みずほフィナンシャルグループ コーポレート・コミュニケーション部 CSR推進室室長の橋村さんに、<みずほ>のCSRへの取組み、と題して金融の価値、金融機関の社会的価値について多面的に、実践例を通してわかりやすくお話しいただきました。 金融犯罪防止のための取組み、バリアフリー化などについては、それらが制度やハード、ソフトの問題であるだけでなく、実際に担う人の姿勢や心がけによって実現されること(ハートフル)。今日の金銭経済社会の現実の上で、小学校から高校までの金融教育の意味を考え実践することなど、地道で堅実な取組みの大切さが深く印象に残りました。金融工学/マネーゲーム的なものとの違いが特徴です。 一方、環境危機対応が問われる時代において、環境負荷軽減のためのファイナンス、つまり新エネルギーなど環境ビジネスへの融資という、本業と直接する事業領域が注目されます。そこでは、環境指向型の企業への金利引き下げやコンサルティング、マッチング(事業連携)、あるいはカーボンフットプリントなど環境会計サービスの提供、クリーン・エネルギー・ボンドなどの例が紹介されました。新しい産業形成の促進への金融を通しての貢献という、金融機関の本来の働きが環境社会づくりにどう現実化しているのかということです。 一方、みずほのオフィス業務自体のCO2削減について、2012年目標を2009年に前倒しで達成したというのは、社会全体の実情から見れば実にすばらしいことです。社員のecoアクション宣言など、さすがにやるべきことをやっているという印象でした。 橋村さんのお話しを通して、米国企業主導による世界的な金融ビジネスの発展に日本は後れをとったといわれ続けてきたこととは異なる、金融機関の公共性の問題について、我々一般市民も含めて、きちんと考え直す必要があると感じました。 |
H.I.S. 清國さん 2010/11/25
株式会社エイチ・アイ・エス経営企画室室長の清國さんに、1980年創業(株式会社インターナショナルツアーズ、90年社名変更)から今日に至るH.I.S.の発展史をたどりながら、海外旅行商品の企画と販売についてお話しいただきました。海外個人自由旅行がポピュラーなものとなる、日本人にとっての海外旅行のイメージの変化そのものが、H.I.S.の事業展開の歴史と重なるものであったことが分かります。世界に飛び出し、いろんなものを見、様々な人に出会いたいという若者をサポートしようと、ビルの一室に机を置いてはじまった小さな事業が、本当に日本の旅の変革につながり、現在は海外に100の拠点を展開するようにまで成長してきたわけです。 さて、海外の現地情報も乏しく安いチケットも手に入りにくかった当初と、現在の状況は大きく様変わりしました。言い換えれば、事業を始めたときのニッチの条件が、市場拡大、経営環境変化によって自社に有利なものとはいえなくなってきたのです。成長したベンチャーが直面する、一般的な課題の一つといえるのかもしれません。価格、情報に競争力がなくなった時代にどうするのか。 清國さんはそれを、H.I.S.を守る人事の課題として応えられました。H.I.S.は創業期から、担当者制を特徴としてきたのです。旅行者の旅を、一人の担当者が最初から最後まで対応する、そして次の旅につなげるという人のサービスを軸としたやり方。コンサルティングによるリピーター獲得へ、という事業づくりです。 エアーやホテルが決まっても、実際の旅の経験そのものは人それぞれ、もともと旅はかたちのない商品だから、一人ひとりの旅行者の具体的な旅をつくりあげるお手伝いということです。 大衆化による拡大、法人営業やインバウンド(海外から国内への旅行者誘致)への展開など、H.I.S.の市場と商品は多種に拡大してゆきますが、その核を人に起き続けようということですね。 あらためて、清國さんが最初に話された、旅行は平和産業である、ということの意味をもう一度考え直してみたくなりました。 |
メルセデス・ベンツ Blue TECとElectric Drive
メルセデス・ベンツ日本株式会社から、企業広報課の百目木さん、商品企画・コンプライアンス部の小西さん、緒方さんがお越しいただき、メルセデス・ベンツの歴史、環境に対する取り組みをお話しいただくとともに、クリーン・ディーゼルを搭載したEクラスBlueTECアバンギャルド、美しいブルーのカブリオレ、そして電気自動車smart electric driveの3台の実車を見せていただきました。
緒方さんのお話は大変巧みで、メルセデス・ベンツMercedes-Benzがドイツの自動車会社ダイムラーの所有するブランドであることからはじめ、創設者カール・ベンツが自動車の発明者であることやレースでの輝かしい歴史を、世界初の女性ドライバーであるベンツ夫人の活躍や、メルセデスという名称がオーストリア領事の娘の名であることなど、エピソードを交えながらお話しいただきました。
なかでもフォーカスされたのは、自動車をつくる責任、という考え方とその実践です。それは数多くの安全向上への取り組みの実績であり、近年の環境対応BlueEFFICIENCYです。衝突安全を考えたコンパクトカーの二重床構造設計が、電気・燃料電池搭載を容易にしたという例も紹介されました。
質疑応答の後は、いよいよ実車の見学です。
広場に並べられたセダンとカブリオレの美しい車体もさることながら、多くがまず引き寄せられたのは、二人乗り電気自動車、smartのかわいらしい姿でした。乗り込んでハンドルを握ったり、充電の仕方などを見せてもらいながら、これからの自動車の姿をそれぞれにイメージしたものと思います。
Das Beste oder nichts(最善か、無か)は、物づくりにかける企業のメッセージですが、ブランドの現実は社会との価値観の共有から生まれるものであり、環境制約という工業社会への困難な課題は、いっそう社会的価値との相互関係を深めるものだと感じました。
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